※この作品には、一部グロテスクな表現やホラー要素が含まれています。苦手な方は閲覧をお控えください。この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

◆あらすじ
新築マンションの角部屋に引っ越してきた主人公は、静かで快適な生活を送っていた。しかし、ある日からベッド横の壁に違和感を覚える。壁に触れると、まるで生き物のような温かさを感じ、日を追うごとに湿り気を帯びていく。夜になると壁の温度は上がり、撫でると奥から撫で返されるような感覚に襲われる。壁の異変に戸惑いながらも、主人公は次第にその壁に魅了されていく。
※! ※以下の内容が含まれます※! ※
ホラー、壁、バッドエンド、怪奇現象、短編
◆生温かい壁
引っ越してきたばかりのマンションは、新築できれいだった。角部屋で日当たりもよく、隣室の音も聞こえない静かな空間。何ひとつ不満はなかった――最初のうちは。
ある日、ベッドの横の壁に違和感を覚えた。
ふと手をついたときに感じた、少しの温かみ。無機質なはずの壁が、まるで……。最初は気のせいだと思い、軽く叩いて確認する。音は鈍い。しかし、叩いた感触がどこかおかしい。
それ以来、その壁が妙に気になるようになった。
無意識のうちに手が伸び、撫でてしまう。指先でなぞると肌ざわりがよく、その温かさは生き物に触れているような錯覚を起こした。
次第に、壁の感触が変わっていくのが分かった。
日を追うごとに表面が少しだけ湿り気を帯び、夜になると温度が上がるように感じる。
撫でると、壁の奥から撫で返されるような感覚がした。
ある夜、壁に背を向けて寝ていると、夢の中で誰かに後ろから肩をつかまれた。ハッと目を覚まして肩を見ると、誰かの指の跡が赤く残っている。
不安になって管理会社に連絡し、壁の中を確認してもらうことになった。作業員がやってきて壁に穴を開ける。すると中には――何もなかった。ただの断熱材と空間。がっかりしたような、ホッとするような気持になる。
だがその夜、壁の感触は明らかに変わっていた。
穴を開けた周辺だけが、ただの壁のように戻っていた。そしてその戻った部分が、日ごとに広がっていく。
もしかしたら、これで事は済んだのかもしれない。そう思った矢先に、異変が起きる。
壁が触れようとしてくるようになった。
寝ていると背中に温かいものが触れる。部屋の中にいると、指先がいつの間に壁を撫でている。手を離そうと思った時には、壁が手の平に吸い付いたような気がして気味が悪くなった。
ただしくは、壁が動くはずがないのに、自分が引き寄せられているとしか思えない瞬間がある――といった方がいいかもしれない。どちらにしろ薄気味悪さを抱えつつも、壁に触れない日はなかった。
そしてある夜、壁に触れた瞬間、指先が――沈んだ。
皮膚が吸い込まれ、第二関節までめり込み、引き抜こうとしても抜けない。
壁の奥で、何かが手を握り返している感覚。
ぐにゃりとした何か冷たく湿ったものが、手を“迎え入れている”。
叫び声を上げたが、誰も助けに来ない。
気づけば、壁の感触は家中に広がっていた。床も、天井も、ドアも――すべてが、柔らかくて、温かい。
家中、全体が歪んで囲い込んでくる。
数日後、部屋には誰の姿もないことが確認された。その間もなく借り手が募集される。
新しく入居した住人が言った。
「この部屋、壁がちょっと……柔らかいんですよね。なんか、こう……あたたかくて、気持ちよくて……つい触っちゃうんです」
〈終〉






