再び巡り合う

◆あらすじ

高校に入学したばかりの主人公は、新しい制服にまだ慣れない日々を送っていた。昼休み、掲示物を貼るために廊下を歩いていたところ、偶然にも小学校時代の友人であるシンジと再会する。

久しぶりの再会に戸惑いつつも、昔話に花を咲かせ、まるで時が止まったかのような錯覚を覚える主人公。

しかし、別れ際、シンジが以前よりも大人っぽく、かっこよくなっていることに気づき、胸がざわつき始める。懐かしい再会から、新たな感情が芽生え始める春の物語。

※以下の内容が含まれます※
恋愛、女主人公、高校生、青春

  

◇再び巡り合う

  

 新しい制服に、まだ少し違和感がある。
 高校生活が始まって数日、校舎の構造もクラスの空気もまだ手探り。
 昼休みになって、掲示物を貼るように頼まれた。掲示板を探して廊下を歩いていたとき、不意に肩がぶつかる。

 「――わっ、ごめ…」

 振り向いたその瞬間、目が合った。
 声より先に、記憶がざわめく。

 「えっ、お前……」
 相手の驚く顔が見える。

 「……マジで?シンジ?」
 思わず、名前が口をついて出た。

 小学校の頃、一緒に遊んでいた“友達”。
 転校してから、もう会うこともないと思っていたその人が、目の前に立っていた。

 「まさか同じ高校だったなんて」
 にわかには信じられない出来事だった。

 「なんか背、伸びたね」
 昔は変わらないくらいだった身長を、シンジは追い越していた。 

 「お前も変わんねーようで、ちょっと変わったな。制服似合ってんじゃん」
 シンジは軽い調子で言って笑顔になる。

 再会は、あっさりしていて、昔話もノリも自然に出てくる。
 思い出して笑う。
 ほんとに、“懐かしいあの頃”に戻ったみたいだった。

 「じゃあ、また。校舎で迷うなよ!」
 「はいはい、先輩面しないで」

 そう言って別れた帰り道。
 風が吹いて、並木道の新緑が揺れる。

 ふと、頭の中にさっきの顔が浮かんだ。

 シンジはちょっと、かっこよくなっていた。

 あの頃の、やたら元気な笑顔じゃない。
 なんていうか、目つきが少し変わってて。
 大人っぽくなったっていうか……。

 「……うわ、やだ。なんか、変に意識してんの私だけじゃん」

 苦笑いしながら歩き出す。
 制服の袖口が、少しずつ体に馴染み始めた春の終わりだった。

 次に会ったのは、ほんの三日後だった。
 昼休みの購買前、パンの列に並んでいたら、ふいに声をかけられた。

 「お、また会ったな。新入生、ちゃんと学校慣れてきたか?」
 「……やっぱり先輩面したいんだ?」
 「いや、してないけど?後輩が困ってないか気になるだけ」
 「それを先輩面って言うんだけどな」

 笑いながら、列を抜けて自販機の前に移動する。
 隣に並んで歩く距離感は、なんだか昔と変わらない。
 けど、同じじゃないのは、ふと横を見たとき――
 顔の輪郭が少し大人びていて、目元が思い出より静かだった。

 「そういや、あのときさ」
 と、向こうが言った。
 「一緒に行ったよな、図書館の奥の資料室。勝手に入って先生に怒られて」
 「あー……あれ、今思うと普通に怒られて当然だったよね」
 「だよな。でもお前、反省してる顔全然してなかった」
 「だって面白かったじゃん。あのとき、隠れてた本の棚見つけて、すっごい誇らしげだったの、覚えてる」
 「……マジで?」

 ふたりで思い出話をくすくす笑う。
 過去の記憶はまるで昨日みたいで、けど、目の前の相手は確実に“今”の顔をしていた。

 「……なんか、不思議」
 と、ポツリと口に出た。
 「ん?」
 「ううん、なんでもない。ただ、ほんとに偶然なんだなーって。 また同じ学校に通って、またこうやって喋ってるの」

 「うん。……でもさ」
 彼はジュースの缶を開けながら、ちょっとだけ真面目な顔になった。
 「偶然っていうより、こう……巡り合わせってやつじゃね?」
 「めぐりあわせ?」
 「そう。俺たち、あのときはただの“子ども”だったろ? でも今は――」

 そこで言葉を切ったあと、彼は軽く笑って首をすくめた。

 「まあ……、また遊ぼう!」
 「……うん」

 返事をした声が、ほんの少し遅れたのは、
 きっと自分でも気づかないくらい、気持ちが揺れたから。

 待ち合わせをしてもないのに、小学生の頃のように校舎の入り口にシンジが待っていた。
 ふたりで歩く帰り道、春の風が吹き抜けるたび、枝先の若葉がきらきらと光っている。

 気づけば、顔を合わせる頻度が増えていた。
 シンジが会いに来る場合もあるし、私が訪ねることもあった、
 けど、それだけというわけでもなく……。
 偶然が何度も重なるうちに、それは“たまたま”じゃなくなっていった。

 朝の昇降口。
 彼が廊下の端でジュースを飲んでいて、こちらに気づいて片手をあげる。
 それを見て、軽く頷き返す。それだけ。

 たとえば、昼休み。
 購買に行くと、ちょうど二人で並ぶ時間が重なる。
 並んで歩いて、何でもない話をして、パンを買って、でも帰るときはそれぞれ別の場所に戻ったりする。
 それが、なんとなくちょうどいい距離だった。

 放課後、教室の掃除当番になった日。
 ほうきを片手にふらふらしていたら、窓の外のベンチに彼の姿が見えた。
 何かを見ているようだ。掃除を終えたあと、なんとなく外に出てみた。

 「なにしてんの」
 「いや、たまにここでぼーっとするの、好きなんだよな」
 小学生の頃、たまに彼が空や景色をじっと見ていたことを思い出す。
 「ふーん……てか、あんたほんと変わんないよね」
 「え、そう?」
 「うん。やってることは昔と一緒。でもさ……」

 言いかけて、やめた。

 目の前の彼は、変わってないようで、でも確実に変わっている。
 姿勢も、しゃべり方も、表情も。
 それにたぶん、自分も。

 「こっち来る?」

 「じゃあ、ちょっとだけ」

 隣に座ると、風が吹いて、新緑の匂いがふわりと通り過ぎた。

 「ねえ」
 「ん?」
 「また、一緒に遊びに行く?」
 「どこかへ遊びに?」
 「別に、遠くじゃなくていいからさ。今度の休みとか」
 「……ああ。いいよ」

 その返事が、なんだか妙に自然で、
 けれど少しだけ胸が高鳴ったのを、自分でごまかすように立ち上がる。

 「じゃ、決まりね」
 「おう」

 その声も、風にまぎれて、やけに軽かった。

 約束していた休日、結局どこに行くでもなく、ふたりで駅前の本屋をぶらついた。
 買うわけでもない本を手に取って、なんとなくページをめくる。
 隣から「それ、絶対途中で飽きるやつじゃん」と茶々が入る。
 言い返して、笑って、何も変わらないようで、
 でも、それがたまらなく楽しかった。

 帰り道、駅の改札前。
 もう夕方になりかけていて、春の光は傾いていた。

 「また遊ぼうぜ」
 「うん、そうだね」

 そう言って、彼が手を振ろうとしたとき。
 ふと思いついたように、口を開いた。

 「……さ、次はさ」
 「ん?」
 「“遊ぶ”じゃなくて、“どっか行こっか”にしない?」
 「……なにそれ、言い方の問題?」
 「うん。言い方の問題」

 彼は一瞬、きょとんとしてから、
 ふっと笑った。

 「じゃあ、次も“どっか行こっか”」
 
 笑いながら、今度は本当に手を振る。
 その背中を見送りながら、
 自分の頬がちょっとだけ熱いことに気づいた。
 
 春の終わり。
 名前はまだないけれど、何かがちゃんと、始まっていた。
 
 
 
〈終〉

  

※この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

  

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