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再び巡り合う

◆あらすじ

高校に入学したばかりの主人公は、新しい制服にまだ慣れない日々を送っていた。昼休み、掲示物を貼るために廊下を歩いていたところ、偶然にも小学校時代の友人であるシンジと再会する。

久しぶりの再会に戸惑いつつも、昔話に花を咲かせ、まるで時が止まったかのような錯覚を覚える主人公。

しかし、別れ際、シンジが以前よりも大人っぽく、かっこよくなっていることに気づき、胸がざわつき始める。懐かしい再会から、新たな感情が芽生え始める春の物語。

※以下の内容が含まれます※
恋愛、女主人公、高校生、青春

  

◇再び巡り合う

  

 新しい制服に、まだ少し違和感がある。
 高校生活が始まって数日、校舎の構造もクラスの空気もまだ手探り。
 昼休みになって、掲示物を貼るように頼まれた。掲示板を探して廊下を歩いていたとき、不意に肩がぶつかる。

 「――わっ、ごめ…」

 振り向いたその瞬間、目が合った。
 声より先に、記憶がざわめく。

 「えっ、お前……」
 相手の驚く顔が見える。

 「……マジで?シンジ?」
 思わず、名前が口をついて出た。

 小学校の頃、一緒に遊んでいた“友達”。
 転校してから、もう会うこともないと思っていたその人が、目の前に立っていた。

 「まさか同じ高校だったなんて」
 にわかには信じられない出来事だった。

 「なんか背、伸びたね」
 昔は変わらないくらいだった身長を、シンジは追い越していた。 

 「お前も変わんねーようで、ちょっと変わったな。制服似合ってんじゃん」
 シンジは軽い調子で言って笑顔になる。

 再会は、あっさりしていて、昔話もノリも自然に出てくる。
 思い出して笑う。
 ほんとに、“懐かしいあの頃”に戻ったみたいだった。

 「じゃあ、また。校舎で迷うなよ!」
 「はいはい、先輩面しないで」

 そう言って別れた帰り道。
 風が吹いて、並木道の新緑が揺れる。

 ふと、頭の中にさっきの顔が浮かんだ。

 シンジはちょっと、かっこよくなっていた。

 あの頃の、やたら元気な笑顔じゃない。
 なんていうか、目つきが少し変わってて。
 大人っぽくなったっていうか……。

 「……うわ、やだ。なんか、変に意識してんの私だけじゃん」

 苦笑いしながら歩き出す。
 制服の袖口が、少しずつ体に馴染み始めた春の終わりだった。

 次に会ったのは、ほんの三日後だった。
 昼休みの購買前、パンの列に並んでいたら、ふいに声をかけられた。

 「お、また会ったな。新入生、ちゃんと学校慣れてきたか?」
 「……やっぱり先輩面したいんだ?」
 「いや、してないけど?後輩が困ってないか気になるだけ」
 「それを先輩面って言うんだけどな」

 笑いながら、列を抜けて自販機の前に移動する。
 隣に並んで歩く距離感は、なんだか昔と変わらない。
 けど、同じじゃないのは、ふと横を見たとき――
 顔の輪郭が少し大人びていて、目元が思い出より静かだった。

 「そういや、あのときさ」
 と、向こうが言った。
 「一緒に行ったよな、図書館の奥の資料室。勝手に入って先生に怒られて」
 「あー……あれ、今思うと普通に怒られて当然だったよね」
 「だよな。でもお前、反省してる顔全然してなかった」
 「だって面白かったじゃん。あのとき、隠れてた本の棚見つけて、すっごい誇らしげだったの、覚えてる」
 「……マジで?」

 ふたりで思い出話をくすくす笑う。
 過去の記憶はまるで昨日みたいで、けど、目の前の相手は確実に“今”の顔をしていた。

 「……なんか、不思議」
 と、ポツリと口に出た。
 「ん?」
 「ううん、なんでもない。ただ、ほんとに偶然なんだなーって。 また同じ学校に通って、またこうやって喋ってるの」

 「うん。……でもさ」
 彼はジュースの缶を開けながら、ちょっとだけ真面目な顔になった。
 「偶然っていうより、こう……巡り合わせってやつじゃね?」
 「めぐりあわせ?」
 「そう。俺たち、あのときはただの“子ども”だったろ? でも今は――」

 そこで言葉を切ったあと、彼は軽く笑って首をすくめた。

 「まあ……、また遊ぼう!」
 「……うん」

 返事をした声が、ほんの少し遅れたのは、
 きっと自分でも気づかないくらい、気持ちが揺れたから。

 待ち合わせをしてもないのに、小学生の頃のように校舎の入り口にシンジが待っていた。
 ふたりで歩く帰り道、春の風が吹き抜けるたび、枝先の若葉がきらきらと光っている。

 気づけば、顔を合わせる頻度が増えていた。
 シンジが会いに来る場合もあるし、私が訪ねることもあった、
 けど、それだけというわけでもなく……。
 偶然が何度も重なるうちに、それは“たまたま”じゃなくなっていった。

 朝の昇降口。
 彼が廊下の端でジュースを飲んでいて、こちらに気づいて片手をあげる。
 それを見て、軽く頷き返す。それだけ。

 たとえば、昼休み。
 購買に行くと、ちょうど二人で並ぶ時間が重なる。
 並んで歩いて、何でもない話をして、パンを買って、でも帰るときはそれぞれ別の場所に戻ったりする。
 それが、なんとなくちょうどいい距離だった。

 放課後、教室の掃除当番になった日。
 ほうきを片手にふらふらしていたら、窓の外のベンチに彼の姿が見えた。
 何かを見ているようだ。掃除を終えたあと、なんとなく外に出てみた。

 「なにしてんの」
 「いや、たまにここでぼーっとするの、好きなんだよな」
 小学生の頃、たまに彼が空や景色をじっと見ていたことを思い出す。
 「ふーん……てか、あんたほんと変わんないよね」
 「え、そう?」
 「うん。やってることは昔と一緒。でもさ……」

 言いかけて、やめた。

 目の前の彼は、変わってないようで、でも確実に変わっている。
 姿勢も、しゃべり方も、表情も。
 それにたぶん、自分も。

 「こっち来る?」

 「じゃあ、ちょっとだけ」

 隣に座ると、風が吹いて、新緑の匂いがふわりと通り過ぎた。

 「ねえ」
 「ん?」
 「また、一緒に遊びに行く?」
 「どこかへ遊びに?」
 「別に、遠くじゃなくていいからさ。今度の休みとか」
 「……ああ。いいよ」

 その返事が、なんだか妙に自然で、
 けれど少しだけ胸が高鳴ったのを、自分でごまかすように立ち上がる。

 「じゃ、決まりね」
 「おう」

 その声も、風にまぎれて、やけに軽かった。

 約束していた休日、結局どこに行くでもなく、ふたりで駅前の本屋をぶらついた。
 買うわけでもない本を手に取って、なんとなくページをめくる。
 隣から「それ、絶対途中で飽きるやつじゃん」と茶々が入る。
 言い返して、笑って、何も変わらないようで、
 でも、それがたまらなく楽しかった。

 帰り道、駅の改札前。
 もう夕方になりかけていて、春の光は傾いていた。

 「また遊ぼうぜ」
 「うん、そうだね」

 そう言って、彼が手を振ろうとしたとき。
 ふと思いついたように、口を開いた。

 「……さ、次はさ」
 「ん?」
 「“遊ぶ”じゃなくて、“どっか行こっか”にしない?」
 「……なにそれ、言い方の問題?」
 「うん。言い方の問題」

 彼は一瞬、きょとんとしてから、
 ふっと笑った。

 「じゃあ、次も“どっか行こっか”」
 
 笑いながら、今度は本当に手を振る。
 その背中を見送りながら、
 自分の頬がちょっとだけ熱いことに気づいた。
 
 春の終わり。
 名前はまだないけれど、何かがちゃんと、始まっていた。
 
 
 
〈終〉

  

※この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

  

木の棒頼りの異世界放浪~歩く奇跡と呼ばれる男~ Wooden stick

主人公:セイ
トラックに轢かれて、異世界に転生した元青年。異世界では少年の体になり、手には木の棒を持っている。
 
◆あらすじ
どこにでもいる平凡な青年、セイ。しかし、不運にもトラックに轢かれ、異世界へと転生してしまう。戸惑うセイの手に握られていたのは、不思議な力を秘めた一本の木の棒。その棒からはなぜか葉が生え、時折光が放たれる。それは彼が「神秘の旅人」と呼ばれる伝説の存在であることを示唆していた。

 

※以下の内容が含まれます※
ファンタジー、冒険、男主人公、異世界転生

  

  

第1章 ― 転生トラックと天の声

   

  
どこにでも居そうな青年、セイは横断歩道を渡っていた。
ありきたりな日常の光景、それを突然の轟音が一変させた。
「ガシャン!」
トラックに轢かれたらしいのは、何となく分かった。クリティカルヒットなのか痛みさえ感じさせず、昇天するような浮遊感に包まれてそのまま目が霞んでいく。そんなセイの頭に、ふいに「やべっ、すまん」と軽い声が響いた。内心、「すまんっって何!?」とツッコミながらも、セイはあっという間に意識を失ってしまった。

どれほど時間が経ったのだろうか? 気が付けば、セイの目の前には広がる青空と柔らかな緑の大地があった。現代の喧騒やビル群は影を潜め、まるで子供の頃に夢見たファンタジー絵本の中へ飛び込んだかのような世界だった。しかし、セイはすぐに、自分の体が以前のような大人ではなく、小さな旅人の体に変わっていることに気づく。そしてなぜか手元に、一本の木の棒きれが握られていた。

「何だってんだ…?」
いぶかしげに、セイがその棒を握りしめた瞬間、棒の先端からひょっこりと小さな葉が顔を出すのを目の当たりにする。
「おい、木の棒が急に育ち始めた!」
その不思議な出来事に、セイは思わず声を出す。当然、彼しかここにはいないので応じる者はいない。そのことに寂しさを覚えつつ、木の棒を握りしめて彼は歩き始めた。

謎の声の「やべっ、すまん」というやけに腹の立つ言葉を頭から追い払い、自分はここでどうやら生きていくしかないのだと納得させる。なにしろ前世の記憶が急速にぼやけていくのだ。一筋、涙をこぼして、それを別れとした。

「へへ、これが本当の相棒ってやつかな?」

日の光を受けて葉を輝かせる木の棒に冗談を飛ばす。彼の冒険は始まったばかりだった。
  
  

第2章 ― 放浪者とはじめての村

   

新たな旅の一歩を踏み出したセイは、ふんわりとした草の感触や、風に乗って漂う花の香りに心躍らせながら、道なき道を歩き続けた。何もかも目新しく感じる。途中、道端には小さな動物たちが集い、まるで彼の存在を歓迎するかのようにすり抜けていく。小鳥がさえずり、空高く舞い上がる様子に、セイは「俺、なんか歓迎されているみたいだな!」と陽気に笑いながら歩んだ。

しばらくすると、彼はひっそりとした小さな村にたどり着いた。村の住人たちは、どこからともなく現れた小さな旅人に最初は不審そうにしたものの、すぐに小さな旅人として歓迎してくれた。

村の数人の大人が「こんな小さな子がどこから来たんだ?」と首をかしげたが、村の古老ミルオがにこやかに前に出て「ほほう、珍しい! 昔からある『神秘の旅人』という伝説を思わせる子だな」と、冗談交じりの声とともに、セイを歓迎したのだ。

同じ年頃の子供たちは元気に「一緒にかくれんぼしよう!」と声を上げ、大人たちも「なんだか縁起がいい」と、セイを温かく受け入れた。

セイは、自分の木の棒きれの不思議な現象を、ふざけた口調で披露すると、周囲は笑いに包まれた。
「俺の棒、急に育っちゃったんだ。これ、運命のサインかもしれねぇ!」
木の棒を振る元気な少年の冗談に、村の雰囲気は一時的な休息と笑いに満ちたひとときとなった。

  

  

第3章 ― 村の歓迎と伝説

  

  

村人たちが、あくまで木の棒の話は軽妙な冗談として笑顔でセイを受け入れた一方、一部の村人達の間では、かつてこの地で起こった不思議な出来事や災厄の伝承が、ひっそりと語られていた。

「あの旅人の持つ棒、触ると温かくなって葉が生えるって本当か?」
「そうだって。村の古老も、あいつを『神秘の旅人』だなんて冗談半分に言ってるんだ。」
「でもよう『神秘の旅人』が現れるとき災厄の力が再び目覚める、とも言われてるだろ?」

セイの方も『神秘の旅人』というのが縁起がいいなら、旅の話の種にミルオから聞き出したいと考えていた。
話を聞きにきたセイにミルオは微笑みながら村に伝わる伝説を語る。
 
 
神秘の旅人の伝説

旅人は、放浪する子供のような人で、いつもひょっこりと人々の前に現れてはその手の木の棒を見せて自慢するという。
その木の棒というのも、ただの棒ではなく触れると温かくなり、時折小さな葉が生えるなど、不思議な現象を見せる。
その木の棒は大きな力を持つと噂され、いつからか運命の杖と敬意を込めて呼ばれるようになった。
人々が迷い困難に会うとき、木の棒は不思議な奇跡を起こし旅人は人々を勇気づけ導くとされる。

   

   

「皆は古臭い伝説と笑うが、わしはこのおとぎばなしが好きじゃった」

そう締めくくるミルオのこちらを見る目が優しく、セイは戸惑う。まるでおとぎばなしと言いながら本気で信じているようにも思えたからだ。

「俺は伝説の旅人なんかじゃないよ」
「ほっほっほっ、当たり前じゃ!今夜の宿は家に泊まるといい。妻の作る野菜のスープは村一番じゃぞ!」

温かいスープで腹を満たしたセイは、初めての異世界の夜を温かい気持ちで過ごした。

  

  

第4章 ― 旅立ちと遺跡の森への第一歩

 

 

翌朝、セイは村での短い安らぎに別れを告げ、旅人として再び歩き出す決意を固めた。村の住人たちは、冗談交じりに「気をつけろよ、神秘の旅人!」と見送り、セイはそれに笑顔で手を振り返した。心の中で「行くぞ、俺の冒険はまだ始まったばかりだ!」と叫んで意気揚々。手提げ袋には水やら携帯食料やらありがたい頂き物でいっぱいだった。

森の中の道は、まっすぐではなかった。木々が生い茂る道沿いには、日の光が細い隙間から差し込み、薄い霧が漂う。セイは、足取りを軽やかにしながらも、ふとした瞬間に辺りの静寂に目を見張る。風が木の葉を揺らす音、鳥たちの囀り、そしてどこからともなく聞こえる微かな囁き。見知らぬ森には怪しげな気配があった。木の棒を握りしめると森の暗がりを遮るように棒が軽く光る。

「お前……光るのか?」
松明はいらないようだ。内心決めつけていたが、魔法とかあるのか聞いとけば良かったとちょっぴりセイは後悔した。

しばらく歩くと、道は次第に狭まり、辺りには古い石碑や苔むした小道が点在していた。セイは、木の棒きれを握りしめながら、石碑を見つめる。村で聞いた伝説が頭によぎった。旅の目的に神秘の旅人の跡を辿るのも面白いかもしれない。

道の曲がり角を行くと、整備された道とは別にセイの前に、薄暗い森の入り口が誘うように広がっていた。そこには、まるで時の流れが止まったかのような静寂と、重厚な空気が漂っている。森の奥からは、時折、遠くでかすかに聞こえる獣のうなり声や、何かがざわめくような音がする。どこか不吉な予感が、セイの心に小さな波紋を広げるが、彼は笑いながらも、その未知への好奇心に押され、意を決して森へと足を踏み入れた。

森の中に入ると、木々はますます高くそびえ、光が届く範囲は狭まっていく。セイは、ふと立ち止まり、深呼吸をする。彼の明るい性分が、どんな暗闇にも負けない強い意志を奮い立たせた。
「こんなに暗い森でも、俺には光る木の棒がある!」
そうつぶやきながら、セイはゆっくりと歩を進める。足元に散らばる小さな花や、風に舞う葉っぱの動きに、彼はふと、森自体に意思があるかのような錯覚すら覚えた。

進むうちに、セイは小さな泉のほとりにたどり着く。水面は澄んでおり、その周りには古びた木の根が不規則に張り巡らされていた。ふと、彼は自分の木の棒きれをもう一度握りしめ、泉のほとりに座り込む。
「この森には誰もしらない秘密が、あったりする……?」
そうつぶやいた瞬間、泉の水面がかすかに揺れ、まるで森が彼に何かを語りかけているかのような気配を感じた。セイは、気楽に笑いながらも、どこか真剣な表情でその光景を見つめ、休憩が終わると立ち上がった。

  

  

第5章 ― 遺跡の森での奇妙な出会いと試練

  

  

しばらく歩くうちに、セイは不意に、一際明るい花が咲く小さな開けた場所にたどり着く。そこで彼は、森の奥から誰かが近づいてくる気配を感じた。気になったセイは、軽快な足取りでその方向へと進んだ。すると、木々の陰から奇妙な格好をした一人の放浪者が現れた。

その男は、ボロボロのローブに身を包み、やや乱暴そうな顔立ちながらも、どこか茶目っ気を感じさせる笑みを浮かべている。男は軽やかに挨拶すると、セイに向かってこう言った。

「よう、若い旅人。お前の持つ棒、珍しい力が宿っているようだな。」

セイは驚きながらも、すぐに笑って応えた。心当たりは十分にある。
「え? 俺の棒が? まあ、葉っぱが生えたり光ったり、それなりに便利だぜ。」

男は、自らを『カゲト』と名乗り、森の秘密やこれからセイが直面するであろう問題について、あいまいに、しかし印象深く語り始めた。

「この森はな、ただの木々の集まりじゃねぇ。古の伝承が眠り、時には運命さえも弄ぶ場所だ。お前みたいな子供が、偶然であってもその木の棒を手にしたなら、これからの試練において、それが何かしら大切な鍵となるだろう。」

カゲトの言葉にセイは、半分冗談、半分真剣な表情で耳を傾けた。カゲトの言葉はミルオの話した伝説を思い出させた。
二人は連れ立って先へと歩みを進める。森の奥深く、光がほとんど届かない薄暗い場所に差し掛かったとき、急に風が強まり、木々がざわめき出した。セイは、何かが起ころうとしているのを直感した。

その瞬間、森全体が、まるで一斉に呼吸を止めたかのような静かな緊張感に包まれた。地面が軽く震え、周囲の空気が変わった。セイは、カゲトがさっきからチラチラと見ていた方向に目を向け、薄暗い茂みの中から、奇妙な光が漏れてくるのを見つけた。

「これが…試練というものか?」
セイは、軽く笑いを交えながらも、少しの不安を跳ねのけ心の中で覚悟を決めた。小さな体にこれまでの楽しい気持ちを詰め込んで、未知への挑戦へと前向きに立ち向かう決意を固めたのだ。

光の方へ進むと、かすかな囁きに似た音と共に、謎めいた古文様が刻まれた石が次々と現れた。セイは棒きれの奇妙な温もりをギュッと握りしめ、慎重にその石の一つに近づいた。すると、突然、足元に埋まっていた苔むした石から、ほのかな光が溢れ出した。まるで森自体が彼に何かを告げようとしているかのように発光現象を起こし始めたのだ。

「おわ……! 石も木も、ここじゃ光るのが常識なのか?」
セイは、思わず冗談交じりに笑ったが、その笑いの裏側には、これから待ち受けるものに対する一抹の緊張感も感じられた。

発光現象が落ち着くと、薄暗い森は石の光に照らされて幻想的な光景に変化していた。
カゲトは、目を丸くするセイの様子を見守りながら、「この先に、大きな謎と危険が潜んでいる。お前の力が試されるだろう」と、静かに警告した。

セイは発光現象への感想を述べることもなく、他人事のように話すカゲトへ呆れた視線を向けるが、明確な協力関係を結んだわけでもないことに思い当たる。発言がいちいち大仰であったが、俺を心配してくれているのだろうか?

自分に合わせ歩みを止めているカゲトをじっと見る。それから、きっと俺と同じお気楽な放浪者なんだろうな……と目を反らした。この世界の自分の将来の姿から目を背けたとも言えるかもしれない。

  

  

第6章 ― 古代遺跡で明かされる秘密

  

 

セイはカゲトと共にさらに奥深い場所へと歩を進めた。森の発光現象も次第に収まり、やがて彼の前にひっそりと佇む古代遺跡が現れた。崩れかけた石壁や、苔むした彫刻、そこに刻まれた謎めいた文字――まるで、時の流れの中で忘れ去られた秘密を静かに語りかけるかのようだった。

セイは、木の棒きれをそっと握りしめながら、足元に広がる古い石畳を慎重に踏みしめた。わくわくと顔には笑顔が広がる。

「ここには…何か大きな秘密が隠されているんだろうな?」
セイはつぶやくと、周囲に広がる古代の文字や模様に目を凝らした。遺跡自体が持つ、幻想的な雰囲気に心を奪われていた。

遺跡の中に入り奥に進むと半壊した扉があり、その先には謎めいた壁画が描かれていた。壁画には、この世界がかつて繁栄していた様子や、古代の伝承が細かく記されていた。

残念ながらセイには文字が読めない。カゲトが大仰に話す声へと耳を傾けた。

「石の光は導、木の影は安らぎ、守神の祝福があった。」
石が光を出し、人々が敬う画。石の光を遮る木の影で平服?あるいは眠っている人々の画。
「ある時、闇が攻めてきた。導を食べ、木を食べ、光と影を食らおうとした。」
黒い塊が化け物のような形をして、何かを食べている画。
「運命の杖は、導を起こす。木を……欠落して読めんな」
カゲトが残念そうに言った。壁画もところどころ欠落している。

「俺の棒…これと関係があるのか?」
セイは木の棒きれで壁画をつつく、その瞬間、壁画の一部が光を放ち始めた。まるで、伝承の通り石の目を覚ますように。それはまるで、木の棒が遺跡に刻まれた古代の記憶を呼び覚ます鍵であるかのようだった。

古代遺跡で木の棒が持つ不思議な力の一端を知ったセイ。カゲトの大げさな話し方に軽口で応じながらも覚悟を固めていた。神秘の旅人の話を集める。もしかしたら、この木の棒はうっかりな誰かさんからの特別な贈り物かもしれない。そう思ったのだ。

遺跡を後にし、森の出口付近でふと空気が変わる。足を止め様子を伺うと、何か不穏な気配が漂い始めた。足音や、かすかな笑い声――普段の森のざわめきとは明らかに異なる、不協和音が混じっていた。

セイは、木の棒きれを握り締めながら、待ち構えた。すると、森の薄暗い中から、一団の風変わりな悪党たちが現れた。彼らは派手な色の衣装に身を包み、奇抜なアクセサリーを身につけ、まるで舞台の上のキャラクターのような風情で、ひそかに企んでいる様子だった。

「おい、そこのガキ! お前、俺たちの忘れ物を見なかったか?」
リーダー格らしき男が、大げさな身振りでセイに問いかける。声にはどこか、滑稽さすら感じられる。悪党たちは、どうやら追い剥ぎがしたいようだった。

セイは、笑みを浮かべながらも、内心では「こんな連中に、木の棒は絶対に渡せない!」と決意する。振り返ると、放浪者のカゲトが、ぼんやりと笑みを浮かべながら立っている。
「お前たち、ここで何を企んでいる?」と、カゲトの低い声が森に響く。悪党たちは一瞬、戸惑った様子を見せるが、すぐに茶化すような笑いに変わる。

リーダーは、鼻で笑いながら、「この森には遺跡があるそうじゃねえか!噂じゃお宝も眠っているらしい。お前のような浮浪者や子供がうろついてるとは思わなかったが、命が惜しくなきゃ出すもん出しな! 」と言い放った。

セイは肩をすくめ、軽快に答えた。「お前らに渡すもんなんてない!」

そして、突如として、戦いが始まった。悪党たちは、派手な動きと大げさなセリフで、セイを捕まえようと攻撃を仕掛けてくるが、セイはその度に、奇妙な木の棒きれの力を利用した。ただの子供の木の棒と思っていた悪党達は慌てて滑ったり転んだり。

例えば、悪党の一人がセイに襲いかかろうとした瞬間、セイの棒から突如として小さな葉が眩しい光を放ち、相手の視界を一瞬奪った。その隙に、セイは身軽に足をすべらせ、相手の背後に回り込み足を払う。すっころぶ悪党はぐえっと呻き、悪党の仲間たちは、そのおどけた光景に思わず笑い転げた。そんな笑う悪党達も笑っている間にその背を押されたり、木の棒でぐいっと突き倒されたり。

リーダー格の男はその様子に怒り心頭。「もういい!野郎ども!ガキと遊びに来たわけじゃねえんだぞ!」
そう叫ぶとお目当ての遺跡に行くために森の奥へズカズカと進んでいく。
「頭~~~!」と手下達も後を追っていった。

カゲトは、セイの動きを見守りながら、「この子は、運がいい。それに棒の力がただの偶然の産物じゃないと俺は思わざるを得ん」と、どこか誇らしげに呟く。セイの方はカゲトが何もしなかったのに呆れた。

「あいつら遺跡の方にいったけど放っておいていいのか?」
「俺はこの森に何度も入っているが、遺跡に辿り着いたのは今日が初めてだ」
セイは驚く。どうやらはじめから歓迎されていたらしい。

戦いが終わって森には再び静けさが戻り、セイは深い息をついた。カゲトは「今日の出来事は、きっとこの世界の運命というものだ」と、静かに語った。森を出てもついてくるカゲトの様子に、セイはこれからの旅路に変な同行人を得たらしいことに気づく。

 

 

第7章 ― 棒切れに秘められた謎

  

  

セイが悪党集団との対決を終え、森を抜けたあとの夜、ふとひとり、焚き火の前に座っていた。体はまだ小さいままだが、その瞳はこれまでの冒険と、新たな発見への期待で輝いていた。彼の手には、いつものようにあの木の棒きれが握られている。

セイは棒をじっと見つめながら、思わず呟いた。
「この棒、なんだかただの木の切れ端ってわけじゃないんだよな……」

棒の先端から生えた小さな葉は、火の明かりに照らされつやつやとしている。どこからどう見ても葉っぱの生えた木の棒だった。

セイは、以前カゲトが言っていた言葉を思い出す。
「お前の棒には、偶然の産物以上のものが宿っている。これから先、運命の歯車を動かす鍵になるだろう」
その言葉が、するーっと頭を通り抜けていく。伝説と聞くとわくわくするが、それが自分に関わるとなればとても信じられない。

「俺の棒…もしかして、その伝説の欠片なのか?」
セイは、笑いながら棒をそっと握りしめた。すると、木の棒きれがきらりと輝く。温かい不思議な光だった。

「よく光っているな」
戻ってきたカゲトが木の棒を見て悩まし気にする。

「俺の自慢の木の棒だからな!」

セイは笑って棒を振る。棒の先の葉からは、彼の旅路を祝福するように光がこぼれた。

 

 

〈終〉

  

  

※この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。