呪いの青風

 

◆主人公

青霧颯太 (あおぎり そうた)
地元の大学に通う大学生。民俗学ゼミのレポートを書くため、『青風羽神社』に現地調査に来た。

◆同じゼミの仲間

夏海 (なつみ)
颯太の恋人で同じゼミの仲間。活発で明るい少女。
タカ
グループをまとめるムードメーカー。
悠 (ゆう)
映像記録係、ビデオカメラ担当。
梨沙 (りさ)
好奇心が強いグループの史料まとめ担当。

 

◆あらすじ

大学の民俗学ゼミに所属する颯太は、恋人の夏海やゼミ仲間(タカ、悠、梨沙)と共に、レポート作成のための現地調査として廃神社『青風羽神社』を訪れる。 初夏のような暑さの中、苔むした石段を登りきり、一行が境内に足を踏み入れようとした瞬間、突風が吹き荒れる。その風の中に、颯太は不気味な囁き声を聞くが、他のメンバーは風に驚いただけで、声には気づいていない様子。空耳かと疑いつつも、拭えない不安を感じながら颯太は境内の中へ足を踏み入れるのだった。

※! ※以下の内容が含まれます※! ※
ホラー、現地調査、大学生、怪奇現象、短編

 

第一章:鳥居で聞こえた囁き

 
 苔生す石段を登り、青霧颯太は大学の民俗学ゼミの仲間と共に廃神社『青風羽神社』を目指していた。

 レポートにするために事前に集めた資料と相違する点がないか、現地調査を行うためだ。すぐ隣には、白いクロッシェの帽子を着けた恋人の夏海がいる。汗が白い喉を伝っていた。
 五月になったばかりだというのに、気温は初夏を通り過ぎて夏の盛りのようだった。

 
 「おーい!」颯太が顔を声の方に向けると、先に着いた同じゼミの仲間であるタカが古びた鳥居の前で声を上げている。律儀に二人を待っているようだった。

 他のメンバーも待機しているようで、撮影担当の悠がカメラをこちらに向けて立ち、梨沙は鳥居の脇に生える杉の大木を見ている。大木には千切れかかったしめ縄があり、誰も手入れをしていないのは確かなようだった。

 
 「着いたぁ!」夏海が石段を登りきって声を上げた途端、突然の突風が吹く。

 
 「……みつけた……」

 

 その風の音に紛れて囁き声が聞こえた気がして、颯太はびくりと周囲を見回す。
 

 「すごい風。倒れるかと思った」木に捕まった梨沙が目を丸くしている。他の三人も風に驚いたようだが、おかしな様子は見えない。あの声は空耳だったのだろうか?

 じわりとした不安が颯太の心に湧く。
 「ほら、入ろうぜ」タカに促され、一行は鳥居をくぐり青風羽神社の境内へと足を踏み込んでいった。

 

第二章:境内の調査

 
 
 社殿跡へ移動すると、梨沙がその跡を調べ、悠が映像記録を取るために歩きまわる。崩れた石塔や祠があり、雑草が視界を悪くしていた。何か資料の足しになるものがないか颯太も歩き出す。

 荒れる境内を見回すと、雑草に紛れて石碑のような物が倒れているのが見えた。字が雨風に削れて分かりにくいが辛うじて読める。

 『青風刎神社』颯太の背筋が寒くなる。それはこの神社の本当の名前だった。廃社となって、地元でこの場所を知っている者はこの神社を『青風羽神社』と呼んでいるが、本当はそうではない。昔、ここで罪人を処刑しその魂を慰霊するために建てられたのがこの神社の成り立ちなのだ。いつの時代か名が変わり、忘れ去られていた。それを颯太たちのグループが資料を元に掘り起こしたのだ。

 「何か見つけたのか颯太!」彼がじっと石碑を見ていると、悠が近寄ってくる。

 「昔の名前が彫られた石碑があった」颯太がそう答えると、悠は嬉しそうな顔をした。
 「大発見じゃないか!」カメラを石碑に向ける。

 その時、再び突風が吹いた。

 「……こっちをむいて……」

 空耳じゃない……!
 どこからか響く声に恐怖した颯太が目をぎゅっと閉じて風が止むのを待つ。風が凪ぐと恐る恐る目を開き、悠へと確認した。
 
 「今の聞いたか?」その問いに悠は答えず、顔を青くしてカメラを構えたまま固まっていた。あの声を恐れているようだ。
 「早めにここを出ようか」と颯太が言うと、すごい勢いで頷く。二人は他の三人のもとへ向かう。

 

第三章:古祠と木箱の発見

 
 社殿跡の確認を終え休んでいた梨沙が、崩れた祠に目を止めた。彼女が祠の前に立つと、地面に何か土を被っている箱のようなものが見えた。

 顔を近づけて確かめてみると、それは半ば埋もれた木箱に見える。

 「ねぇ!みんな来て!」梨沙が大きな声でゼミの仲間を呼ぶ。近くにいたタカと夏海が真っ先に集まり、離れた場所にいた颯太と悠は遅れてしまう。

 「ほら見て」梨沙はせっかちに土を掘り箱を手に取ると中を開けた。箱の中には『青風刎神社』の旧社名と、関係者らしき何名かの名が連なった紙片が入っていた。その名の中には、颯太と同じ名字である青霧の名がある。それを見つけた瞬間、颯太が凍りつく。
 
 「わあ、颯太と同じ名字だ!」嬉しそうな夏海の声がした。颯太が夏海の横顔を見る。彼女も『青風刎神社』の成り立ちを良く知っているはずだった。なにしろ恋人というだけではなく同じゼミの仲間だ。なのに(……何故そんなに嬉しそうなんだ)内心の動揺を悟られないように四人から颯太が距離を取る。この廃社は颯太の地元のものだった。そこで見つけた青霧という颯太と同じ名字、不吉なみつけたという声、じわりと嫌な汗がシャツを濡らす。一致してはいけないものが一致している。

 悠が顔色悪く颯太を見ていた。「大発見だね!」と梨沙達、三人の盛り上がる声が響く。この三人は声を聞いていないのだろうか?それとも聞いた上で……?颯太の心に疑念が顔を出す。

 

最終章:禁忌の伝承

 

 箱の中の他の紙片の一つを梨沙が面白がって読み上げた。「えー……っと、風ニ呼バレカエリミタル者ハ風ニ魂ヲ喰ワ……擦れてるけど喰われるかな?この神社に伝わる伝承みたいね」それを聞いた悠がいよいよ全身をガタガタと震わせる。

 「な、なぁ、もういいだろう?これ以上は罰が当たるかもしれないし帰ろう!十分な収穫だろっ!」悠の叫ぶような大声に、タカ、夏海、梨沙が訝しげになる。悠は落ち着きなくカメラを持つ手を震わせている。四人へ事あるごとにカメラを向けて張り切っていた朝の様子と今はまるで違う。

 「ここまで来たら、隅々まで見て回ろうよ」それに夏海が悠に反論する。

 「僕も帰りたい。すまないけど気分が悪くなってきた」そこへすかさず颯太が割って入った。悠と同意見だった。気分が悪いのも本当だ。
 「そうだな。こんなに暑いんじゃ熱射病になってもおかしくない」タカが賛同してくれた。颯太はホッとする。三人の意見を二人は無視しないだろうと安心したのだ。
 「そうね……、しょうがないか」梨沙の同意する言葉、夏海は残念そうにしたがそれ以上は何も言わなかった。

 五人が境内を出ようとして社殿を背後にして、鳥居をくぐろうとしたその時。

 「……こっちをむいて……」

 ゴウッという突風と共に耳元に声が響いた。「うわああああ‼」たまらず悠が叫び声を上げて、石段を降りていく。「何……?誰か何か言った?悠のやつ、あんなに駆け足で降りて転んだらどうするつもり?」梨沙も悠を心配して急ぎ足で降りていく。
 「なぁ、今の声……」タカが困惑した顔で、横の颯太の顔を見る。颯太はまっすぐ前を見ていた。声の方、背後の社殿跡を意識して、前以外見れなかった。
 「行こう!颯太」常なら明るく場を華やかにする夏海の声と、柔らかい手が颯太に重ねられる。こんなに暑いのに、いつもと違っていやに冷たい夏海の手が颯太の手を引いた。
 「ここで突っ立っててもしょうがないか」そう言ってタカも降りていく。

 『えー……っと、風ニ呼バレカエリミタル者ハ風ニ魂ヲ喰ワ……擦れてるけど喰われるかな?』

 梨沙の読んだ紙片の言葉が颯太の頭の中に繰り返し響いた。喰われたあと……魂が無くなった体はどうなる?

 当然、そんなことを知るものは誰もいない。こちらを見ない夏海の顔が、冷たく固く握られたその手が、颯太の心を底冷えさせた……。

 

呪いの青風〈終〉

 

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